今月号の俳句

今月号への投句から代表的なものをご紹介します。


<主宰句>

サックスの音のしのびたる秋の暮    川村智香子

 


<名誉主宰句>

黙示録のごとく林檎の置かれたる    瀬戸美代子

 


<丁東抄句>(同人句より)

 

駅までの五体投地や炎天下          山口千代

 

読み返す二十歳の日記晩夏光         妻鳥芳子

 

今年こそこれもしようの夢晩夏        𠮷川美智子 

  

天高しのぼるは未だ躊躇する         渡辺正剛

 

連帯は反故となりしか枝豆食む        安藤靖

 

終点を知らぬしあわせ道おしえ        飯塚喜久雄

 

夫迎う盆楊灯に灯をともす          池田ミツ子

 

夢に泣き夢を摑んで夏五輪          石井きよ子

 

鹿おどし朝のしじまを鋭角に         石井千代子

 

駅前のシャッター通り晩夏光         石井政治 

 

踏ん張りの一樹を揺らす秋の蝉        市川めぐみ

 

稲光り右脳左脳が目を醒ます         井上蕾兄

 

向日葵野「戦争と平和」を開く        岩城庸子

 

荒家にまんじゅしゃげ赤二三本        岩楯惠津子

  

炎昼やバーナーで焼く停止線         大野遍路

 

ゴーグルの跡くっきりと夏終わる       岡田典代

 

翅つまみ蜻蜓の顎と対峙せり         岡田雅江

 

風鈴の消えゆく音の身にしみて        岡部和恵 

  

老いゆくはかくあれかしと柳散る       尾崎純子

   

ほとばしる水に重さや終戦忌         長田美恵子

 

虫たちの声明風に秋彼岸           柿崎瑠美子

   

うらみつらみ炎帝に吐き靴を履く       加藤かほる

 

名にし負ふ北の大地のラベンダー       川杉三千子

  

一夜さの櫓たちまち雲の峰          黒田緑

 

人生はかくのごとしや鰯雲          桜庭義昭

 

八月の影曳く平和記念像           清水勝子

 

萩の花やをらつくれる風の道         菅沼とき子

 

送り火やゆっくり帰る茄子の牛        菅原淑子

 

雲の峰初志貫徹の構へかな          髙橋俊彦

 

九天より川面に銀河零れたり         竹見啓子

 

炎天や最も淋し鬼瓦             田畑ヒロ子

 

大向日葵後ろ姿の寂しかり          筒井尚子

 

ほろ酔いの夜道に幽か虫の声         寺部良樹

 

ベルサイユの蹄軽やか夏五輪         中江映水

 

写真から声聞こえそう今朝の秋        中根登美子

 

日常を離れ大人の夏休み           中村理起子

 

新盆や星の言葉に目を凝らす         白水溟舟

 

秋の雷何度も聞いて眠りたり         橋本韶子

 

半島の魚付林や緑濃し            長谷川昭放

 

秋空へスケボー少女の背に翼         林晄司

 

竜の背をのぼりゆくごと青岬         広田妙子  

 

コーヒーより紅茶が好きと生身魂       藤本博夫

 

つくつく法師なにかドラマが生れそう     松本淳子

 

ミサ曲のもれくる窓辺晩夏光         三嶋恭子

 

空蝉の金剛の爪いとおしむ          村上友美

 

    


<新珠抄句>(会友句より)

  

青空にカーンと白球終戦日          佐藤与一

 

遠き日のほのかに甘き真桑瓜         煎本美知子

 

聖火消え戦火まだなお晩夏光         髙橋純子 

 

人気なき都会の炎昼異界めく         木村邦子   

 

初挑戦の鮎の甘露煮腕まくる         岡田康雄 

 

かぶと虫今夜こそと秘密基地         小島 翠 

 

心頭を滅却できずかき氷           増島光月

 

新涼やケット欲しがる膝頭          佐野紀子

 

コスプレが時空歪める風鈴市         髙島章生 

 

曽屋神輿雄大豪壮揃い踏み          小沼 登

 

丹沢の鳥影重くなる秋雨           小林ひろこ 

 

指の先水の匂ひの赤蜻蛉           伊藤キララ 

 

富士登山闇路の灯りつらなりて        松本百合子

 

蜩の声冴え渡る薄暮かな           飯塚みどり

 

雪渓や喉を潤す小休止            川上千秋 

 

「チン」しても何かが足りぬ焼秋刀魚     門馬邦勝

 

復帰せし横綱勇姿の土俵入り         佐藤友美 

 

この空にまだ居たいらし秋燕         常盤律子 

 

赤トンボ穂先で揺れてホバリング       吉田榮治 

 

いかづちの光と走る新幹線          中津川菫扇

 

昼寝して夜は応援パリ五輪          北風千映弥

 

迎え火に目を閉じ小さき手を合せ       馬場陽子

 

口笛を軽い足取り秋の空           竹家良輔 

 

百日紅友の笑顔のⅤサイン          髙橋みどり

 

影伸びてようやく出番夏散歩         小林利栄

 

西空に三日月赤し南海トラフ         長谷川健明  

 

河骨や黄色に映えし日をのせて        田辺かつら

 

 


<添削例>(本部句会より)

 

素顔こそ若さひかるや薄紅葉    →  素顔こそ若さのひかる薄紅葉

 

佇めば来世の声ともすすき原    →  佇めば来世の声すすき原

 

かなかなかな字余りに鳴く切なさ  →  かなかなかな字余りに鳴く切なさ

 

すれ違ふ母目配せ秋日傘     →  すれ違ふ母目配せ秋日傘

 

アクシデントに満ち満ちた夏眼裏に →  アクシデントに満ち満ちた夏なりし

 

めまとひ右巻きに湧くあらしかな →  めまとひ右巻きに湧くかな

 

炊き立ての御飯の香せり稲の花   →  炊き立ての御飯の香り稲の花

 

蕎麦花風が白さを攫い行く    →  蕎麦花風が白さを攫い行く

 

マウンテンバイク初秋駆け降る   →  マウンテンバイク初秋駆け降る

 

 

緑濃跳ねる日差し乱れ舞う   →  緑濃跳ねる日差し乱れ舞う

 

沙羅の花そらめに夫を見ており  →  沙羅の花そらめに夫を見ており